
佐賀市から車で40分。脊振山系の山あいの名尾集落に紙すきの技法が伝わったのは、今から300年以上前の元禄12(1699)年。「名尾手漉和紙」は農家の副業として地域に根付いた佐賀県重要無形文化財です。その名尾手漉和紙の技を継承するのは、明治9(1877)年創業の名尾手すき和紙。6代目の谷口祐次郎さんが家業を継いだのは25年ほど前のことでした。
「昔は紙漉きをする家が100軒ほどあったといいますが、うちだけという状態にまで減り、父も高齢に。その頃はバブルの時代。自分も後を継ぐつもりはなかったのですが周囲の薦めで<ダメだったらサラリーマンに戻ればいい>程度の軽い気持ちで後を継ぎました」。
名尾手漉和紙は、名尾集落周辺にのみ残っているという「梶(カジ)」を使って作られます。梶は繊維が長く、和紙を漉く過程で繊維同士が絡みつき、薄く漉いても破れにくいのが特長です。「家業といっても梶の栽培から紙漉き、出荷まで全部自分ひとり。部品を仕入れて組み立てる、みたいな分業の仕事ではないのでゼロから自分でやる、そこが面白い。親の仕事を見て、教えてもらったこともありますが、やっぱり自分で試行錯誤しながらやってみないとわかりません」。
現在の名尾手漉和紙に見られる色染めや押し花などは裕次郎さんが始めた工夫。「薄くて丈夫な名尾手漉和紙は、提灯や障子など人の印象に残らない部分に使われてきました。紙を漉き問屋に収めるだけでは生活も苦しいということもあり、一般の人に日常で使ってもらいたいと考えて、便せんや封筒などの加工も始め、販売も始めました」。
直接販売で使い手と接するようになり、「直接買ってもらった時は<何に使うんですか>と必ず聞きます。すると自分では想像もつかないような使われ方、例えばコースターとか。照明を作るとか。勉強になるんです」。パッケージやラベルに使われたり、和紙の用途も広がりつつある。
そして残るただ1軒の名尾手漉和紙、となると後継者も気になります。「うちの長男が2年ほど前から一緒に仕事をしているんですよ。長男のことを考えると20代・30代の若い方にも名尾手漉和紙を使ってもらいたい。若い方が手漉き和紙をどう捉えているか分からない部分もありますが、工業製品にはない<手作りの文化>を評価してもらえたらうれしいです」。
お問合せ:肥前名尾和紙(佐賀市大和町) TEL:0952-63-0334
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