「ピースクラフツSAGA」は認定NPO法人ピースウィンズ・ジャパンが実施する佐賀の伝統工芸を支援するプロジェクトです。
活動レポート
2017年4月20日

佐賀の伝統工芸がピースウィンズ・ジャパンの支援で パリの国際工芸フェア「レベラション」に初出展

工芸最先端宣言!を謳う「ピースクラフツSAGA」は、5 月にパリで開催される国際工芸フェア「レベラション2017」に出展します。世界のファインクラフトが一堂に集うレベラションは、2013 年から隔年開催されている見本市で、今年で第3回目を迎えます。ファインクラフトとは、優れた技術力や芸術性によって生み出される最高級クラフトのこと。これを絵画などのファインアートと同格に位置付け、市場をリードしている点で、画期的な見本市として注目されています。パリ発の新潮流とも言うべきレベラションは、まさに佐賀の伝統工芸が新しい一歩を踏み出すのに相応しい場であると考えます。

※ピースクラフツSAGA は、特定非営利活動法人(認定NPO)ピースウィンズ・ジャパンによる、佐賀の伝統工芸を支援するプロジェクトです。

 


 

REVELATIONS 2017

会 期:2017 年5 月3 日~8 日 10:00~20:00(最終日は19:00 まで)
会 場:Grand Palais( グランパレ)
    Avenue Winston Churchill 75008, Paris France
主 催:アトリエ・ダール・ド・フランス(フランス工芸作家組合)
キュレーター:アンリ・ジョベ・デュヴァール
目 的:最高級の技術力を要するメティエ・ダール(手仕事の芸術)を応援し、
    ファインクラフトの市場をリードする
出 展:約400 人の作家、17 カ国が出展(前回)
来場者:約3 万8000 人。このうち、インテリアデザイナーやギャラリーオーナーなどの
    専門家は約1 万1000 人。メディアやジャーナリストは454 人(前回)

 


 

●テーマ

 このたび、佐賀の伝統工芸のつくり手は、フランス人デザイナーと協働し、ファインクラフト分野に挑戦しました。工芸が持つ現代性を引き出し、新たな表現に果敢に挑んだ作品を、パリの国際工芸フェア「レベラション」に出品します。
 レベラションでは、日本に古より伝わる『浦島太郎』の物語をモチーフに、「海」と「時」をテーマとしたブース演出を行います。日本列島を取り巻く海は、自然の宝庫であり、生命の源です。中でも佐賀県は玄界灘と有明海の2つの海に接した豊かな地域。今回のものづくりでは海を天然染料の藍で表現しました。
例えば藍で染めた牛革や和紙の素などを積極的に材料に取り入れ、これまでにない表現に挑みました。
 ブース演出のモチーフにした浦島太郎に登場する海底の竜宮城は、異国あるいは異次元空間、別の時間軸にある世界と考えられています。竜宮城から浦島太郎が持ち帰る玉手箱は、叡智あるいは意識とも言えます。
玉手箱を開けることによって、浦島太郎は海底と陸上の時の流れの相違を知り、自らが置かれた状況を悟ります。
 失って初めて気づく価値は多くあります。工芸もその1つ。消滅すれば取り返しがつかなくなる手仕事の技術や精神、またつくり手の人生観や哲学を1つひとつの作品に込め、世界の人々に工芸の存在意義と未来のあり方を広く真摯に問いかけます。

 

コーディネーター/滝野アンナ

 

 

PWJプレスリリース_0417高-2 ※ピースクラフツSAGA の展示ブースのパース画。海底から海面を見上げた景色をイメージし、空間全体を優しい光で包み込む。藍に染めた布や和紙を天井から吊るすインスタレーション「海雲」で構成

 

 

●出品作品と出展者について

肥前びーどろ

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副島硝子工業

金箔や銀箔、ガラスの破片などを積層した幻想的な色ガラスと、木の器を組み合わせたボックス「玉手箱」を出品します。試行錯誤を繰り返し、ガラス膜を3層も重ねて製作した色ガラスは独特の深みのある色合いを特徴とし、4種類の色柄で四季を表現しています。肥前びーどろの起源は、幕末に佐賀藩が設立した精錬方(理化学研究工場)にさかのぼります。明治36 年、その技術を受け継いだ副島源一郎が副島硝子工業を創設しました。肥前びーどろは、ガラスの竿を使って息を吹き込み、宙空で成形する宙吹き技法の1つ「ジャッパン吹き」を伝統技法とし、滑らかな肌合いを特徴とします。

 

佐賀錦

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佐賀錦振興協議会

飛鳥工房とのコラボレーションによる3つの円形トレイ「波紋」を出品します。繊細で優美な織物として知られる佐賀錦(さがにしき)をトレイの側面に張り込み、インテリアアイテムとしました。大小のトレイは伝統的な佐賀錦を使用した「市松」と「網代」、中のトレイは藍に染めた牛革を経糸に使用した新開発の織物を採用した「矢羽」。佐賀錦は金や銀、漆を貼った和紙を細く裁断して経糸に、染色した絹糸を緯糸にして手作業で織り上げたものを言い、江戸後期に鹿島藩鍋島家で発展しました。1910 年にロンドンで日英大博覧会が開催された際、大隈重信の計らいで佐賀錦と名づけて出品したことから、この名が定着したと言われます。

 

諸富家具

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飛鳥工房

佐賀錦振興協議会とのコラボレーションによる円形トレイ「波紋」を曲木加工で製作。ほかに2枚の木製円盤を組み合わせて製作した、コロコロと転がるオブジェ「干満」を出品します。「干満」は流木のような粗い木目の木と、丁寧に磨かれた艶のある木を組み合わせることで、時の経過を表現した作品です。飛鳥工房は、元々、木製引手など家具部品の製造会社として創業した後、1994 年より木製玩具やインテリア雑貨の製造、販売に着手しました。現在は佐賀市諸富(もろどみ)町に直営店も構え、子供から大人まで高い人気を誇っています。

 

 

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レグナテック

欧州ではあまり馴染みのない、楠(くす)の1枚板を活用した家具3アイテムを出品します。取手のないフラットな前板が特徴の「スピッココンソールテーブル」、天板と脚が一体化した「トメ脚リビングテーブル」、脚の長い「カウンタースツール」です。また木屑の香りを空間の演出に使用します。佐賀市諸富町は家具関連企業が集まる地区として知られています。筑後川対岸の福岡県大川市から木工技術が伝わったことにより、九州有数の家具産地として発展しました。諸富家具を代表するレグナテックは、上質な素材とデザインで最上級の暮らしを提案するオリジナル家具「CLASSE」の企画、製作、販売を主に行っています。

 

弓野人形

20170417_7江口人形店

尾にたくわえた藻が長寿の証である亀のオブジェ「萬年亀」をブロンズ粘土を使い、細やかな彫り込みによって表現しました。さらに亀の甲羅、脚の鱗、藻をデフォルメし、金、藍、白に鮮やかに彩色した卵型のオブジェを出品します。弓野(ゆみの)人形は、明治時代、博多人形師の原田亀次郎が武雄市の弓野地区で作り始めた土人形が元となりました。博多人形の完成された美に飽き足らない思いを抱いた原田が、より親しみのある素朴な人形を求めたと言われます。素焼きした人形全体に胡粉(ごふん)を厚く塗り、ぽってりとした形にして、絵具で鮮やかに彩色を施すのが特徴。デザインが多彩で、数百種類もの型が現存します。

 

名尾手漉和紙

20170417_8肥前名尾和紙

浅井ローケツとのコラボレーションにより、藍に染めた和紙の素を質感豊かに漉き込んだ「紙藍染(かみあいぜん)」をインスタレーションに使用します。また表面が部分的に盛り上がった「紙泡(しほう)」シリーズの和紙や、和紙を立体的に固めた様々な形の「まゆ玉ランプ」を出品します。名尾手漉和紙(なおてすきわし)は元禄時代に農業の生産性が低い山地での農家の副業として発達し、九州有数の製紙産地となりました。梶(かじ)を原料とするため、繊維が長く、繊維同士が緻密に絡み合い、強靭で、耐久性に優れる点が特徴です。伝統的な草木染め和紙や草花を漉き込んだ和紙など、様々な種類があります。

 

金工

20170417_9花鏨

日本古来の遊戯である貝合わせをモチーフにした、銀製のオブジェ「蛤合子」を出品します。内側に金箔を部分的に張ったきらびやかな蛤に、彫金によって四季を抽象的に表現しました。ぴったり合った二枚貝は仲睦まじい夫婦をも意味することから、これは浦島太郎と乙姫の愛の物語に例えることができます。花鏨(はなたがね)は金工職人が営む工房です。築190 年になる茅葺屋根の民家に工房と展示室を構え、デザインから製作までを1人で行っています。日本の感性を大切に、日本古来の金工技術と西欧のジュエリー技法を融合し、時代を越えて親しまれる工芸の美を現代に問いかける作品を生み出しています。

 

藍染

20170417_10浅井ローケツ× ホリイ

浅井ローケツは京都でロウケツ染めを行っている着物染色業者で、中でも天然灰汁発酵建本藍染の技術で知られています。天然灰汁発酵建本藍染とは、天然藍を使い、京都の桂川水系から汲み上げた地下水を利用して、炭焼場で入手した灰に熱湯をかけ、その上澄みを使って建てる藍染のこと。徳島県の阿波地方に5軒しか残存していない阿波藍農家のうちの藍師の1人、外山良治が育てた蒅(すくも)を使用しています。この藍染に出合い、8 年間かけて藍染革「スクモレザー」を開発したのがホリイです。原皮のなめしなどを工夫し、しなやかさを損なわない藍染革に仕上げています。今回は、佐賀錦とのコラボレーションに挑みました。

 

●デザイナー

20170417_11Sarah Rousselle /サラ・ルセール
プロダクトデザイナー。1983 年パリ生まれ。2007 年にフランスのストラット・カレッジ・デザイナーズ校を卒業後、Richard Hutten(ロッテルダム) やTodd Bracher(ブルックリン) 、Bethan Gray(ロンドン)などのデザインスタジオに勤務。2016 年に独立。フランスのホームインテリアブランド「ComingB」やポルトガルのテーブルウェアブランド「Vista Alegre」などの商品開発を行う。分析的アプローチを得意とし、高品質でノーブルな素材を使った、機能性と美しさを兼ね備えた商品開発に注力している。

 

20170417_12Arthur Leitner /アーサー・ライトナー
プロダクトデザイナー、建築家。1986 年パリ生まれ。2010 年にベルサイユ国立高等建築学校のマスター修了。スペインやフランスの大手建築事務所で家具やインテリア設計を担当した後、ルイ・ヴィトンの「Objets Nomades」コレクションのプロダクト開発に従事。2014 年にデザインスタジオを設立し、Kreo Galerie、ルイ・ヴィトンなどでデザインコンサルタントを務める。2014 年から「Kyoto Contemporary」、「Contemporary Japanese Design」に関わり、日本の伝統工芸品のデザインを複数手掛ける。

 

20170417_13Christophe Gaubert /クリストフ・ゴベール
プロダクトデザイナー。Dior やThomson Multimedia などの大手メーカーをはじめ、様々な企業に務めた後、台湾のインテリアデザイナーHueiting Chang と「Studio Ting」を設立。「Ting」ブランドを立ち上げ、商品開発を行う一方、自治体ならびにパリや台湾にある主要美術館からの依頼で、地場産業振興のプロジェクトに携わる。つくり手に寄り添い、ともに考えてつくるという信念の下、アジアでもなくヨーロッパでもない東西を越えた概念や、伝統と現代をつなぐ新しいアイデンティティーを持った商品開発に挑む。

 

●コーディネーター

20170417_14Anna Takino /滝野アンナ
コーディネーター、インターナショナルアドバイザー。1977 年日本生まれ。日仏の家庭に育つ。パリ第10 ナンテール大学で文化人類学を学んだ後、京都大学に研究生として留学。早稲田大学に交換研究員として在籍後、日仏友好150 周年を機にパリに戻り、日本政府観光局パリ事務所に勤務。フランス国立東洋言語文化研究所にて日本語を教える傍ら、京都市、金沢市の観光レップを務める。2014 年~2015 年、「Contemporary Japanese Design」のフランス側プロデューサーを務める。パリでクリエィティブ・ワークスぺース「Espace Ma」を運営。またKaleido Design 社を立ち上げ、ピースクラフツSAGA をサポート。

 

 

(杉江あこ/意と匠研究所)

 

ピースクラフツSAGAは、まもなくパリで開催される国際工芸フェア「レベラション2017」に出展します。世界のファインクラフトが一堂に集うレベラションは、佐賀の伝統工芸が新しい一歩を踏み出すのに相応しい場であると確信します。特集記事ではレベラションに向けて最先端工芸に取り組むつくり手たちをご紹介します。