「ピースクラフツSAGA」は認定NPO法人ピースウィンズ・ジャパンが実施する佐賀の伝統工芸を支援するプロジェクトです。
活動レポート
2017年7月17日

長寿の亀をモチーフに 仏人デザイナーとオブジェ共創[江口人形店]

素焼きの陶器に絵の具で彩色したオブジェ「乙姫」シリーズを手に取る来場者

(写真:Julie Rousse)

 

「浦島太郎」の物語を亀に託す

 江口人形店は、佐賀県指定の伝統工芸である弓野人形の素材や技法を基に新たに開発したオブジェを、レベラション2017の会期中、「ピースクラフツSAGA」のブースに展示しました。展示したオブジェは、全長約45㎝の「萬年亀」と全長約10㎝の「乙姫」シリーズです。ブロンズ粘土製の萬年亀は、日本人が長寿を願うシンボルとしての亀を立体化したオブジェ。素焼き陶器に彩色した乙姫シリーズは、この萬年亀のディテールをデフォルメしたオブジェです。これらのオブジェは、ピースクラフツSAGAが今回のテーマとした「海」と「時間」を象徴する作品です。また、テーマの下敷きとした浦島太郎の物語でも、主人公の浦島太郎を乗せて時空を超える存在として、重要な役割を果たしています。これらのオブジェは、萬年亀を先頭に複数の乙姫が後を追うようなイメージで、ブースの正面に展示。多くの来場者がこれらに目を留め、手に取って感触を確かめました。

 

 

ブロンズ粘土で制作したオブジェ「萬年亀」(全長約45㎝)を両手で抱える来場者。長寿を願うシンボルとして亀を解釈する日本の文化と、日本独特の亀の造形に多くの来場者が関心を示した 写真:Julie Rousse

ブロンズ粘土で制作したオブジェ「萬年亀」(全長約45㎝)を両手で抱える来場者。長寿を願うシンボルとして亀を解釈する日本の文化と、日本独特の亀の造形に多くの来場者が関心を示した (写真:Julie Rousse)

 

 

亀のエレメントを分解して作品化

 これらのオブジェは、仏人コーディネーターと仏人デザイナーらが江口人形店に提案して完成させました。特に乙姫シリーズは、長寿のシンボルである亀のディテールを抽出して卵型のオブジェに仕立てた作品です。こうしたデフォルメ表現は日本では珍しく、江口人形店にとって、「新たなクリエーションと出合う貴重な機会」(江口人形店の江口誠二さん)となりました。亀の甲羅から発想した「乙姫 籠目」、尾に付く藻をモチーフにした「乙姫 水紋」、ウロコを強調した「乙姫 青海波」は、どれも日本の伝統的な造形や様式をベースにしながら仏人クリエーターの感性によって進化した工芸です。「工芸最先端宣言!」を掲げるピースクラフツSAGAプロジェクトを象徴する作品の1つと言えます。

 

乙姫 籠目

乙姫 籠目(全長約10㎝)。亀の甲羅を卵型のオブジェの全面に浮き上がらせ、青の絵の具で彩色

 

乙姫 水紋 

乙姫 水紋(全長約10㎝)。長く生きる亀の尾に付く藻をモチーフにしたオブジェ

 

乙姫 青海波

(全長約10㎝)。亀の足に見られるウロコ模様を、伝統文様の青海波に見立てた 

 

初めて触れる亀のイメージ

 展示ブースを訪れる来場者に対し、江口さんは作品の意図や素材について丁寧に説明を加えました。これを聞きながら萬年亀や乙姫シリーズに触れた来場者からは、次のような感想が聞かれました。「萬年亀の造形や物語は新鮮で、日本の文化の一端を理解できました。そのうえで乙姫シリーズを見ると、オブジェでありながら、お守りのような精神性が伝わってきます」「1体の亀(萬年亀)と3つのパーツ(乙姫シリーズ)を一緒にディスプレイすることで、空間に物語を持ち込むことに成功しています。工芸の新しい可能性を示していると思います」。

 

ファインクラフトを目指して

 今回のレベラションへの出展を通して、江口さんは弓野人形を進化させることに手応えを感じました。ほかのクリエーターとの共創のみならず、自らの創造力を一層高めながら世界に通用する弓野人形を創作する−。そんな挑戦から生まれる新たな弓野人形を見る日は、そう遠くないでしょう。

(下川一哉/デザインプロデューサー、エディター、意と匠研究所代表)

 

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