「ピースクラフツSAGA」は認定NPO法人ピースウィンズ・ジャパンが実施する佐賀の伝統工芸を支援するプロジェクトです。
活動レポート
2018年4月4日

“佐賀の青”を宙吹きガラスで表現[副島硝子工業]

澄川さんが描いたファーストスケッチ

(写真:すべて下川一哉)

 

プロダクトデザイナーに商品デザインを依頼

 

 ピースウィンズ・ジャパン(PWJ)は、佐賀の伝統工芸支援事業「ピースクラフツSAGA」の活動の一環として、2018年2月より商品開発を新たに開始しました。PWJとともに商品開発に挑んでいる事業者は、副島硝子工業、飛鳥工房、佐賀錦振興協議会、江口人形店、金照堂、たなかふみえさんです。そのうち副島硝子工業、飛鳥工房、佐賀錦振興協議会の商品開発に関しては、プロダクトデザイナーの澄川伸一さんにデザインを依頼。澄川さんはこれら佐賀の工芸品に興味を持ち、本格的な商品開発のためのデザインに着手したのです。澄川さんはソニーのインハウスデザイナーとしてキャリアを始め、ウオークマンや短波ラジオなどのデザインに携わった実力派です。最近では2016年リオオリンピック公式卓球台をデザインし、有機的なスタイリングで脚光を浴びました。

 今回は、ガラス工芸で知られる副島硝子工業の商品開発について経過を報告します。1月31日、澄川さんは副島硝子工業を初めて訪れました。まずは代表取締役の副島太郎さんとの顔合わせと工房視察が目的です。澄川さんが着目したのはやはり、型を用いずに宙空で成形する宙吹き技法。この技術が生きるようなモノが何かできないかと思案します。澄川さんには、これまでにもラインが美しいガラス製品や金属製品などを数々生み出してきた経験があります。

 

 

分厚い高台が支える量感あるフォルムを求めて

 

 東京に戻ると、澄川さんはすぐさまアイデアをまとめ始めました。数日後、PWJの下に青いペンで手描きされた1枚のファーストスケッチが届きます。さらに続けてコンピューターグラフィックスが届き、そのイメージがより具体的になりました。それは分厚い高台に支えられた、横にたっぷりと張り出した楕円状の花器でした。また、上から下にかけて青から透明へと徐々に色が薄まっていくグラデーションを特徴としています。早速、これらを副島硝子工業に届けると、「非常に難しいが、挑戦しがいがある」と副島さんの職人魂に火をつけました。工房の窯の火入れが始まると、副島さんは試作を重ね、コンピューターグラフィックスに描かれた花器の形と色合いにどうにか近づけようと奮闘します。澄川さんも東京から経過を見守りました。

 3月14日、澄川さんが副島硝子工業を再び訪れました。今度は試作を見ながらの打ち合わせが目的です。試作を初めて目にした澄川さんは、その想像以上のできばえに手応えを感じました。しかし副島さんいわく「図面通りに口を小さくつくろうとすると、物理的にグラデーションの表現が生まれにくくなるんです」。

 

 

デザインを見直し、3種類のシリーズ商品に

 

 澄川さんは「このデザインで最も表現したいのは、高台のたっぷりとしたボリューム感と横の張り感。それが上手く表現できていたので十分」と言い、口を小さくすぼめずに、横に大きく開いたままの鉢へとデザインを修正することにしました。それならグラデーションを豊かに表現できるからです。鉢は大小2種類にし、大は観賞用、小は果物入れや花器などを想定。「このデザインの重要点は高台の立ち上がり。宙吹きをする際に、最初に竿に巻きつけるガラス種をイメージしました。そこにガラスの美学が宿っているように思うんです」と澄川さん。

 また原案に近い形で、やや広めの平らな口にデザインを修正した青1色の花器にも再挑戦してもらうことにしました。「高い技術を持つ職人が息を吹いてつくるカーブほど美しいものはない」と澄川さんは副島さんの技術力に期待します。いずれも商品シリーズ名は“佐賀の青”を意味する「サガンブルー」に仮決定。さて、どんな商品が完成するのでしょうか。発表は2018年8月頃。ふるさと納税の返礼品にもラインアップする予定ですので、どうぞお楽しみに。

(杉江あこ/意と匠研究所)

 

試作を基に、綿密に打ち合わせをする副島さん(左)と澄川さん(右)(写真:下川一哉)

試作を基に、綿密に打ち合わせをする副島さん(左)と澄川さん(右)