ピースクラフツSAGA 佐賀の伝統工芸を支援するプロジェクト
活動レポート
2018年8月3日

メタリックな輝きの「麟Lin」シリーズの頂点を極める[金照堂]

絵付けを請け負う武富錦を訪れ、デザイン案を示して、職人に絵付けの指示をする松本さん

(写真すべて:下川一哉)

 

色と形に長けたデザイナーを起用

 

 ピースウィンズ・ジャパン(PWJ)は、佐賀の伝統工芸支援事業「ピースクラフツSAGA」の活動の一環として、2018年2月より商品開発を新たに開始しました。今回は、有田町で有田焼の商社を営む金照堂の商品開発について経過を報告します。これまで金照堂はメタリックな輝きを特徴とする有田焼「麟Lin」シリーズの商品展開を行ってきました。東京都内の百貨店などでも販売されるなど、同シリーズが着実な人気を得てきたいま、次は同シリーズ全体のブランド構成を明確にするうえで必要な頂点となるトップブランドを開発したいと、代表取締役の金子真爾さんは考えました。これを受けて、ピースクラフツSAGAのクリエーティブディレクターを務める下川一哉は、金照堂の新商品を開発するにあたり、デザイナーの松本泉さんを指名しました。

 

 松本さんは資生堂宣伝部で商品パッケージのデザインに長年携わってきたベテランです。退社後もデザイナーとして活動を続ける一方で、鮮やかな色を際立たせたアーティスティックな昆虫写真を撮り、個展を開くなどの幅広い活動も行っています。下川は麟Linシリーズ特有のキラっとした光を放つ偏光絵具を生かすには、造形力のみならず、多彩な色の表現に長けた松本さんしかいないと確信しました。2017年3月中旬に下川は松本さんにデザインを依頼し、4月初旬に早速、松本さんは色のバリエーションも含めた16のデザイン案を上げてきました。そのデザイン案を持って、4月24日に松本さん、下川、PWJスタッフは、金照堂を訪れました。皆で協議をしたうえで、16のデザイン案の中から開発する商品を「HEART」に決定。これはハート形をした花瓶で、黒い生地にイエローグリーンとエメラルドグリーンが抽象絵画のように載った美しいデザインです。さらに麟Linシリーズの生地を製作している光峰窯、絵付けを請け負っている武富錦を訪れ、松本さんは職人にその技法を見せてもらい、ディテールなどについて確認しました。

 

 

 

花瓶の絵付けイメージは「海と大陸」

 

 

 その後しばらくは、金照堂と光峰窯、武富錦との間で試作が続きました。そして試作の目処がある程度立った7月6日、松本さんは再び金照堂を訪問。そこには5点の試作品が並んでいました。まず、試作をしてみて難しかったのが形状です。麟Linシリーズのトップブランドは量産品ではないためロクロで成形します。HEARTは真正面から見るとハート形ですが、横から見ると滑らかな扁平形状です。ロクロでは円形を基本に成形するため、全体を楕円形にすることが困難でした。そのため底辺は円形にしながら、上部を手で叩いて変形させ、下から上にかけて徐々に扁平にさせる方法を採りました。しかしそれでも「少し肩が張っている感じがするので、口辺部から肩にかけてのラインを滑らかにしたい」と松本さんは初見での気づきを伝えます。

 さらに、色にも言及しました。松本さんは「地の色をもう少し黒くしたい。これではグレーに見える。黒と2色のグリーンとの対比を際立たせたい」と指示。松本さんがイメージする黒とは、南部鉄器のように締まったマットな黒。また2色のグリーンの絵付けについても「人の手で作為的に描いた跡が見えるので、もっとランダムに色を載せたい」と言います。松本さんがイメージする絵は「海と大陸」。つまり海が地の黒で、大陸が2色のグリーンです。海の中に大陸があり、さらにその周辺に小さな島々がたくさん浮かんでいるような構図なのです。絵具の塗り方も「粗な部分と密な部分の両方がほしい」と細かく指示します。

 

 

 

試作品を見て、綿密な打ち合わせをする松本さんと金子さん

 

 

 

本焼きのみで理想の形状をつくる

 

 

 こうした松本さんからの指示を受け取り、金子さんは問題解決のため、方々を走り回り、あらゆる施策を検討しました。まず約900の素焼きで歩留まり良く焼く方法では形状を扁平にしづらいという事情から、素焼きの工程を省略し、約1300の本焼きで一気に焼く方法を採用することにしました。こうすることで滑らかな扁平形状を維持することが可能となりました。さらに地の黒は黒い陶土を使用する、白い陶土に黒い釉薬をかける、または黒い絵具で塗装するなど、いろいろな方法が考えられました。最終的に白い陶土に黒い釉薬をかける方法を選んだのですが、Linシリーズで使用している偏光絵具を発色させるには、使用できる釉薬の種類が限定されるため、通常では簡単に表現できる濃い黒もなかなか上手く表すことができないという事情がありました。そこで光峰窯は発想の転換を図り、釉薬をごく薄くかけるという通常とは真逆の手法を採ったのです。その結果、なんとか理想の黒に近づくことができました。

 

 

 

 

蒔絵の手法を磁器に採用!?

 

 

 7月26日、松本さんは金照堂を改めて訪問し、進行した試作品を確認しました。形状と地の黒については、松本さんが納得できるレベルに仕上がっていました。問題は、2色のグリーンの絵付けです。職人はこれまで均質な絵付けを施すことが多かったため、抽象絵画のようないびつに、まばらに絵付けをするという感覚が分かりません。そこで松本さんは試作品を見て、理想に近いと思う部分を挙げて説明しました。

 最後に、エメラルドグリーンが上手く発色していないことに関して、皆で検証した結果、イエローグリーンとエメラルドグリーンが重なった部分は発色せず、色が白くなることが判明しました。そこで金子さんと松本さんは蒔絵の手法で、グリーン系の金箔を使うことを考案。イエローグリーンの絵具を塗って焼成した後、その上に金箔や金粉を載せ、窯の中で約200℃の熱を与えて金を定着させるのです。取引先の1つである琥山窯でその技法が可能であるため、早速、試作することにしました。試作の仕上がりは8月上旬に。このようにまだあまり試されたことのない高度な技術をいくつも使った商品開発は、商社だからこそできたことです。この金照堂の新商品発表は2018年9月頃。ふるさと納税の返礼品にもラインアップする予定ですので、どうぞお楽しみに。

(杉江あこ/意と匠研究所)

 

 

新たに試作することになった、蒔絵で使用するグリーン系の金箔サンプル

県内の伝統工芸制作者の課題や方向性は同じではありません。しかし、ひとつひとつ手作りで作られる工芸品を「より多くの人に知ってもらいたい、長く使ってもらいたい」という想いは一緒です。その想いをカタチとして届けるため、PWJは今後、さまざまな活動に着手します。佐賀の伝統工芸をまだ知らない人々へ向けての情報発信、チャネル開発、生活様式や生活者の意識の変化に対応した商品づくり。海外市場を見据えた商品開発や展示会の開催も計画中です。
次のステージを目指す伝統工芸のつくり手を支援することにより、PWJは佐賀県の地域振興に貢献したいと考えています。

ふるさと納税で伝統工芸を支援