ピースクラフツSAGA 佐賀の伝統工芸を支援するプロジェクト
つくり手

有田焼/川崎精一

(取材写真:藤本幸一郎)

妖艶な花の魅力を彫りの陰影で青白磁に再現する

まるでだまし絵のような陰影の妙

 佐賀空港から飛行機に乗る際、搭乗待合室からゲートをくぐり、ブリッジに差し掛かったあたりで、壁内に設けられた展示棚に、佐賀の陶芸作家として川崎精一さんの作品「薔薇陰刻鉢」が紹介されています。その大きな鉢に施された見事な彫りに、歩みを少しだけ緩め、目を奪われる人もいるのではないでしょうか。「昔から花が好きです。花はきれいで、妖艶で、見ているだけで心を動かされます。まるで女性のような存在だと思います」と川崎さんは静かに話します。いつもモチーフとするのは、ユリ、バラ、カサブランカ、ツバキなどの花。これらの花を写実的に彫り込んだ青白磁や白磁の作品を発表してきました。川崎さんの作品の特徴は、陰影の妙にあると言えます。それは影を利用してフォルムを浮かび上がらせる、「陰刻」の技法によってもたらされます。川崎さんは、彫りの角度を工夫することで立体感に強弱を与えるのです。強い立体感を持った彫りは、ただ深く彫ることによってのみ表現されているのではありません。ときには彫りのセオリーから逸脱し、凹と凸を逆転させることで、強く豊かな陰影に挑むこともあります。彫りが施された面に指先で触れると、その彫りが予想以上に浅いことに驚かされます。まるでだまし絵のようで、それが川崎さんの作品の魅力の1つとなっています。

工房で彫りの作業に勤しむ川崎さん

様々な刃物を用いて、生地に繊細で複雑な彫りを加える

太陽の光で目が眩んで、目が覚めた

 川崎さんは佐賀県立有田窯業大学校で作陶の基礎を学び、さらに同校で教職員として働いた後、陶磁器メーカーにデザイナーとして勤めました。そして37歳で独立。独立するまでの間に、ほぼ独学でロクロ成形を習得し、また彫りの腕も磨きました。この作風を確立したのは、教職員をしていた20代半ばの頃です。きっかけは、校庭で植物をデッサンしていたときのこと。デッサンに夢中になるあまり、太陽の強い光を目が受け、一瞬、目が眩んだことがありました。景色が薄赤い光に包まれ、植物本来の色が奪われて見えたと言います。「そのときに植物の陰影に魅力を感じたんです。これまでいかに色にとらわれて、物を見てきたのかを思い知りました。私は物の本質にまったく気づいていなかったんですね。陰影によって写し出された、植物のたおやかさや妖しげな魅力をどうにか表現したいと思いました」と振り返ります。鉛筆を使って、生地に彫りのイメージを下描きする ロクロ室の風景

磁器をもっと生活空間に取り入れたい

 表現にあたり、川崎さんは最初からこの技法に行き着いたわけではありません。染付や釉掛け、和紙染めなど様々な技法に挑戦し、また釉薬の色もいろいろ試しました。その中で青白磁の中に現れる彫りの陰影がもっとも自然でしっくりきたのだと言います。さらに近年は、青白磁と併せて白磁の作品も増えてきました。「もっと奥行きのある彫りを研究したい。また季節の移ろいなど、日本人が持つ情緒を取り入れたいと思っています」と今もなお表現方法を探求しています。さらに新たな挑戦として、「磁器を生活空間に取り入れることを提案していきたい」と川崎さんは言います。その1つが陶額です。大きな壺や花瓶を飾る習慣がない人でも、額になっていれば、壁に磁器を飾ることができます。もう1つは照明器具です。陶土に光の透過性が高い長石を混ぜ、従来の作品よりも照度を高めた照明器具を製作しました。明かりを灯すと、彫りの花がふわりと浮かび上がります。こうした川崎さんの挑戦はこれからも尽きることがないでしょう。

(杉江あこ/意と匠研究所)

彫りがほぼ完成した生地。釉掛けを待つ 自宅の床の間には川崎さんの青白磁の作品がたくさん並んでいる

精華窯
所在地:佐賀県西松浦郡有田町北ノ川内丙592-17
TEL:0955-46-5356
営業時間:
定休日:
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製品紹介

カサブランカ陰刻三つ脚鉢(咲き初め)咲き初めのカサブランカを彫りで表現した青白磁の三つ脚鉢/12,000円(税 込)
カサブランカ陰刻三つ脚鉢(咲き盛り)満開のカサブランカを彫りで表現した青白磁の三つ脚鉢/12,000円(税込)
絵変わり陰刻皿薔薇妖艶な薔薇の姿を彫りで表現した青白磁の平皿/8,000円(税込)
絵変わり陰刻皿椿たおやかな椿の姿を彫りで表現した青白磁の平皿/8,000円(税込)
白鷺陰刻陶額大佐賀に多く見られる白鷺を彫りで表現した青白磁の陶額/200,000円(税込)
月下美人陰刻壺夏の夜に咲く月下美人を彫りで表現した白磁の壺/450,000円(税込)

県内の伝統工芸制作者の課題や方向性は同じではありません。しかし、ひとつひとつ手作りで作られる工芸品を「より多くの人に知ってもらいたい、長く使ってもらいたい」という想いは一緒です。その想いをカタチとして届けるため、PWJは今後、さまざまな活動に着手します。佐賀の伝統工芸をまだ知らない人々へ向けての情報発信、チャネル開発、生活様式や生活者の意識の変化に対応した商品づくり。海外市場を見据えた商品開発や展示会の開催も計画中です。
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