「ピースクラフツSAGA」は認定NPO法人ピースウィンズ・ジャパンが実施する佐賀の伝統工芸を支援するプロジェクトです。
活動レポート
2018年10月6日

マグカップと豆皿を組み合わせた使い方を提案 [たなかふみえ]

工房で、試作品のマグカップに上絵付けをするたなかふみえさん

(写真すべて:下川一哉)

 

満を持してマグカップをつくる

 

 ピースウィンズ・ジャパン(PWJ)は、佐賀の伝統工芸支援事業「ピースクラフツSAGA」の活動の一環として、2018年2月より商品開発を新たに開始しました。今回は、有田町で陶芸家として活躍するたなかふみえさんの商品開発について経過を報告します。現在、PWJのふるさと納税できわだって高い人気を誇るのが、たなかさんの商品です。そんなたなかさんが挑んだのは、以前から需要がありながら、なかなか実現できなかったマグカップです。なぜなら、通常、たなかさんはロクロ伝統工芸士の白須美紀子さんに生地製作を依頼していますが、マグカップだけは敬遠されてきたからです。マグカップは焼成時に取っ手が外れやすいため歩留まりが悪く、また生地に傾きや歪みが生じやすいため、本来より厚めに成形しなければならないという欠点がありました。したがって今回はロクロではなく型を用いることを検討し、様々なツテをたどり、友人の父である陶磁器デザイナーの石原重行さんに成型を依頼しました。

 

 

 

納得できるマグカップの形状を求めて


 石原さんは波佐見焼産地で型師として活躍する一方、自身の工房で日常食器の製作と販売も行っている人物です。まずはたなかさんが自ら使いたい理想のマグカップをスケッチしました。たなかさんの既存商品に胴部がふっくらとした湯呑みがあり、最初はその湯呑みの延長線上でマグカップが出来ないかと考えたのです。そのスケッチを基に、石原さんが機械ロクロや鋳込みなど様々な型技法を駆使して試作に挑みました。ほぼスケッチどおりに出来上がった生地を受け取り、たなかさんはそれに下絵付けを施して焼成し、マグカップとしての佇まいを検証しました。しかし実際にこの試作品を見てみると、たなかさんは納得できません。「胴部をふっくらとさせたことで、ちょっと重たい感じがする」という点が引っ掛かりました。
 そこで次の試作では胴部を少しすっきりさせることにしました。同様に下絵付けを施して焼成し、マグカップとしての佇まいを検証すると、たなかさんはようやく納得できました。実は本体だけでなく、取っ手の形状もたなかさんが考えました。佐賀県立有田窯業大学校時代にコーヒーカップを製作した経験があり、その際に自分で削った取っ手が基になったと言います。親指を上に載せて安定する形状であること、女性なら指が3本は入る大きさであることがポイントでした。「私が取っ手をがっちりと握りたいと思うため、大きめの取っ手が好きなんです」とたなかさん。

 

 

 

「染錦波千鳥」の千鳥に濃(だ)み筆で赤絵を施す

 

 

縁起の良い伝統文様を5つ採用


 こうして生地の試作に目処がつき、あとはたなかさんが本領を発揮する絵付けの段階となりました。今回、マグカップに選んだ文様は銀彩鳥小花、染錦雨降り人物文、染錦松竹梅パンダ、染錦波千鳥、染錦三果文の5つ。いずれもたなかさんの既存商品で人気が高く、また縁起の良い伝統文様ばかりです。
 さらにたなかさんは使い方の提案もしたいと考えました。それはマグカップと豆皿を組み合わせる使い方。マグカップにお茶やコーヒーを注いだ後、その上に豆皿を載せて、蓋代わりにするというアイデアです。特にティーバッグでお茶を淹れる場合は、豆皿で蓋をすることで効率良く蒸らすことができます。蓋を外した後の豆皿は菓子入れにも利用できます。実はたなかさん自身がこうした使い方を普段からしているそう。「完璧な商品を提案するよりは、少し自由な使い方を残した商品の方が愛される」というのが意図です。豆皿は新たに開発するのではなく、既存商品の中から選びました。あらかじめマグカップの口径を豆皿の径に合わせて設計しておいたため、マグカップに豆皿を載せた佇まいも「良い感じ」とたなかさんは満足できました。
 この新商品は2018年9月25日に、「ピースクラフツSAGA EDITION 2018」の1つとして発表され、ふるさと納税の返礼品にもラインアップされました。どうぞご覧ください。

 

(杉江あこ/意と匠研究所)