「ピースクラフツSAGA」は認定NPO法人ピースウィンズ・ジャパンが実施する佐賀の伝統工芸を支援するプロジェクトです。
つくり手

伝統に革新を加え「感動」を生み出す唐津焼の名匠十四代中里太郎右衛門さん

14代中里太郎右衛門top

中里太郎右衛門窯は唐津の地で420年以上続く名窯です。長い年月をかけて磨き上げられ、受け継がれてきた技で生み出される自然で素朴、かつ洗練された器はピースウィンズ・ジャパンのふるさと納税の返礼品でも人気を博しています。唐津焼の伝統にオリジナリティを加え進化させ、未来へと繋ぐチャレンジを続ける十四代中里太郎右衛門さんにお話を伺いました。

奥様の自家製パンから始まる中里太郎右衛門さんの一日

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ふるさと納税返礼品(唐津焼/十四代中里太郎右衛門/唐津井戸盃) 十四代中里太郎右衛門/唐津井戸盃

「朝食には家内がつくった自家製パンを毎日食べています。添加物が嫌いなので、小麦も無農薬のものを使っています。食べ物は、米や野菜も無農薬にこだわっています」と語る十四代。健康管理のために取り組む毎日40分の散歩も5年間欠かすことなく継続されているそうです。「朝7時頃から作陶を始め、夕方は6時半頃まで仕事をします。夜は昔から苦手で、すぐに眠たくなってしまいます」。健康的な食事と規則正しい生活が長きに渡って素晴らしい作品を生み出し続ける十四代中里太郎右衛門さんを支える土台となっているのかもしれません。

御茶盌窯(おちゃわんがま)記念館で過ごす至福のひと時

唐津焼中里太郎衛門窯_お茶碗窯記念館1
唐津焼中里太右郎衛門窯_お茶碗窯記念館2 お茶碗窯記念館

「一番リラックスできるのは、記念館で一人ゆっくり座ってコーヒーを飲む時間です」と語る十四代中里太郎右衛門さん。自らの生家でもある、約150年前に建てられた古民家を改築し、唐津焼の逸品の数々を常設展示する御茶盌窯記念館。庭のデザインは自ら考えられ、建物も外観や内装の細部までこだわって建てられました。「中里太郎右衛門窯だけではなく、唐津の町全体をデザインしていこうと考えています。そして、その視線の先には世界があります」。大きな夢を実現させるためのプロセスの一つである記念館は太郎右衛門さんにとっても特別な場所なのです。

異分野と自然から学び独自の作品を生み出すモノづくりの精神

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唐津焼中里太郎右衛門窯ショールーム

「焼き物だけでなく、建築や庭、海外の芸術など何にでも興味があります」と語る十四代中里太郎右衛門さん。「興味がある物事に通ずるのは『自然さ』です。例えば、庭に木を植えたばかりだと真新しくて違和感がありますが、年数がたつとなじんで溶け込んでいきます。それと同じように古い唐津焼の茶碗も、何百年と使われていく中で自然に変化をします。時間とともに周囲の環境に溶け込み、風合いが出るのが素晴らしいと感じます」と時間が生み出す変化の面白さを語ってくれました。「建築や庭づくりなど目の前に現れてくる現象からさまざまな事を学び、チャレンジすることが焼き物づくりの豊かなアイデアになります。同じものを続けるのも良いですが、途中で少し違うことをしてみます。それが、戻った時に進化につながれば本望です」と芸術家として成長し続けるための心構えを語る太郎右衛門さん。「一番興味があるのは歴史になかったようなことをすることです。もちろん伝統的な技法も魅力がありますが、そこにプラスアルファでオリジナルの技術や考え方を加えるのが好きなのです」。今後生み出される新たな作品の登場も楽しみです。

世界を見据える唐津焼の巨匠

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ふるさと納税返礼品(唐津焼_十四代中里太郎右衛門 絵唐津松文大皿) 十四代中里太郎右衛門/絵唐津松文大皿(写真提供:中里太郎右衛門陶房)

「大英博物館で古唐津を見て唐津焼に興味を持ったイギリス人男性が3年ほど前にウィンチェスターから唐津に移り住み、窯で勉強中です。唐津焼で洋食器を製作してくれていますが、非常にセンスが良くこれからが楽しみです」と真っすぐにお弟子さんを褒める十四代中里太郎右衛門さん。「彼はシェフでもあるので、料理人の理にかなった器をつくります。我々職人はプロ並みの料理をつくるわけではないので、学ぶところも多いのです」。窯もののレパートリーも幅が広がり、ここでも進化が生まれているようです。「2018年には彼がきっかけとなって、ウィンチェスターで市民向けの講演会を開きましたが、皆さん、熱心に耳を傾けてくださいました」と笑顔で語る十四代中里太郎右衛門さん。「2019年にタイで行った展示では、感動して涙を流す人もいて、私も胸が熱くなりました」。「来場者から『どういうものが良い焼き物ですか』という質問を受けましたが、その時に私が答えたのが『人を感動させられる焼き物』でした」。

モノづくりの神髄。未来へと世界へと繋いでいきたいこと

唐津焼14代中里太郎右衛門
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「国境や人種を超えて人が感動するものを生み出すのが私の喜びであり生きがいです。モノづくりの神髄は、モノを通じていかに人に感動してもらえるかだと思います。独りよがりではいけません。嫌々やるのではなく、自分が楽しみながら人を感動させられるのが理想です」とモノづくりの神髄を語る十四代中里太郎右衛門さん。そして、「焼き物をつくるように唐津の町をつくりたいです。究極はみんなが喜んでいられる街、楽しい街、感動できる街、文化度の高い街です。そのためにも各分野のさまざまな人たちと交流し、協力し合いながらより良いモノをつくり、より良い街をつくり、より良い国、世界をつくっていくのが私の夢です」と笑顔で語ってくれました。「私がしていることは、400年以上前から先祖が唐津の地で焼き物をつくり続けてきたという歴史の流れがそうさせているのだと思っています。そして、それを未来に繋げる役割が私にはあるという気持ちで日々を生きています。現在から未来へ、唐津から世界へと続くその道の橋渡しをするのが私の役目なのではないでしょうか」。還暦を過ぎた巨匠の目は若々しく輝いていました。

取材写真:藤本幸一郎、商品写真:ハレノヒ(御茶盌窯記念館はスタッフ撮影)

公開日:2021年1月18日
 
更新日:2023年9月21日

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