「ピースクラフツSAGA」は認定NPO法人ピースウィンズ・ジャパンが実施する佐賀の伝統工芸を支援するプロジェクトです。
つくり手

有田焼の次代を担う若手の星。伝統技術と現代感覚の融合に挑戦する井上祐希さん

有田焼_井上萬二窯_井上祐希

井上萬二窯は、白磁を追求する重要無形文化財指定(人間国宝)の陶芸家、井上萬二さんが佐賀県有田町に開いた窯元です。井上萬二窯の継承者であり、井上萬二さんのお孫さんでもある井上祐希さんは有田焼の未来を担う若手作家として注目を集めています。伝統技術と現代感覚の融合を試みたアイデアあふれる作品はピースウィンズ・ジャパンのふるさと納税返礼品としても人気です。有田焼のすそ野を広げ、新たな道を切り拓く井上祐希さんにお話を伺いました。

井上祐希さんの基礎を支える「窯の外」での経験

ふるさと納税事業者(有田焼)/井上萬二窯/井上祐希2
ふるさと納税返礼品‗有田焼/井上萬二窯/白磁花形小鉢揃 井上萬二窯/白磁花形小鉢揃

「中高生の時にファッションに興味を持ち、大学卒業後はアパレル企業に就職しました。妻と知り合ったのもその職場です。そこで働いたのは1年だけでしたが、今の自分の土台になったともいえる濃厚な1年でした」と窯の外で働いた経験を噛みしめるように答える井上祐希さん。「主に接客だったので、お客様との接し方やモノの見方、敬語の使い方、電話対応など社会人としての基本的な部分を身に付けることができ、非常によい経験だったと思います」。「もし、井上家に生まれていなかったとしても服か音楽関係かモノづくりか、とにかく何かを創作する仕事をしていたと思います」。井上家に脈々と流れるモノづくりの遺伝子は祐希さんにも着実に受け継がれているようです。

祖父が人間国宝になり、将来を意識し始めた幼少期の記憶

ふるさと納税(有田焼)/井上萬二窯1 井上萬二窯提供
ふるさと納税(有田焼)/井上萬二窯2 井上萬二窯提供

「平成7(1995)年に祖父の井上萬二が人間国宝に認定されました。すると、家族や友人からも祖父の話をされるようになり、『もしかしたら、いつか窯を継ぐことになるのかな』と幼心に将来を意識し始めた記憶があります」と、窯元に生まれた自覚が芽生えた7歳のころを懐かしく語る祐希さん。「記憶はないのですが、2~3歳くらいの時に土を高く掲げている写真が残っています。当時は、仕事場が遊び場だったのです」。子供のころから自然と土に触れあう環境が祐希さんの感性や才能を育んだのかもしれません。

「有田焼」と「独自表現」のはざまで葛藤を感じる井上祐希さん

ふるさと納税事業者(有田焼)/井上萬二窯/井上祐希3
ふるさと納税返礼品(有田焼/井上萬二窯/井上祐希/黒釉滴対飯碗) 井上祐希/黒釉滴対飯碗

「有田焼という焼き物は形も模様もきれいに整っているものが多いです。実は、私はそれが苦手です。同じ作業を続けたり、同じものをつくったりするのがあまり得意ではありません。もしかしたら、職人に向いていないのかもしれません(笑)」とモノづくりに対する悩みを打ち明けてくれました。「技術を磨いて均一の物をつくれるようになるのは大切なことだと祖父からは厳しく言われています。そのための努力は欠かしませんが、自分の個性も表現したくて、今は模様だけでも1点1点違うもの、かつ、制御できない揺らぎがある作品をつくることもあります」と伝統とオリジナリティのはざまで葛藤する素直な気持ちを語る祐希さん。「井上萬二窯は、ほとんどの作品をろくろでつくります。先輩の職人さんたちは信じられないくらい技術力が高く圧倒されます。祖父や先輩たちを見ると、技術を習得するのは本当に先が長いと感じます」。祖父である井上萬二さんや先輩たちの技術に対する憧れと尊敬の念が祐希さんの言葉の節々から伝わってきます。

偉大な祖父、井上萬二さんへの「尊敬」と「反骨心」

ふるさと納税事業者(有田焼)/井上萬二窯/井上祐希4
ふるさと納税(有田焼)/井上萬二窯3 井上萬二窯提供

「祖父の『ろくろの技術』と『好奇心・探求心』は尊敬していますし、見習いたい部分です。ろくろの技術は誰もが知るところですが、実は、好奇心や探求心の強さがすごいと感じています。例えば、ドライブをしても行きと帰りは必ずちがう道を通り、常に新しいことを探すなどアンテナの感度が非常に高いのです」と祖父に対する敬意を語ってくれた祐希さん。「うちで頑固なのは祖父と私です。実は、よく衝突しています。私としては自分の意思を伝えているだけなのですが、祖父は歯向かっているととらえているかもしれません(笑)。生まれた時代が違うのでいろいろと思うところが違うのは当然だと思います」。「もちろん、祖父の精神や技術は大切に受け継いでいこうと考えています。ですが、表現は自分のフィルターを通して楽しみながら取り組んでいきたいとも思っています」。萬二さんへの尊敬と反骨心を併せ持ち、素直にそれを表現する祐希さんの真っすぐな人柄が伝わってきました。

有田焼のホープ、井上祐希さんが語る支えてくれる人たちへの感謝

ふるさと納税事業者(有田焼)/井上萬二窯/井上祐希5
ふるさと納税事業者 (有田焼)/井上萬二窯/井上祐希6

「令和2(2020)年に父を亡くしました。それをきっかけに、自分の足りない部分と今まで以上に向き合うようになりました。『もっと努力をしなきゃいけない』『もっと自分を磨きたい』という気持ちが強くなっています」と窯を継ぐ者としての心境を真剣な表情で語ってくれました。「中高の同級生は商社や窯元の経営を担う立場になりつつあります。今もつながりは深く、いろいろなことを相談します。心強い存在です」。同級生や支え合える人たちへの感謝の気持ちを表現してくれた祐希さん。「私は、自分の考えや感情を言語化し、相手に伝えることが苦手です。また言動に行動が伴わない部分や自己中心的な部分があります。責任感を持ち、ぶれない軸を手に入れ、信頼のある人間、誰にでも寄り添い、気遣いのできる人間になりたいです。他にも感謝力や想像力が乏しかったり、思慮が浅かったり、、挙げたらキリがないです(笑)」と内面の成長を望む祐希さんの言葉には、人としての真っすぐさが表れていました。「人生、結局は人です。僕はありがたいことにいい人に恵まれすぎてる人生を送っています。その方々のお陰で今があります。まさにこの記事を読んで頂いてる○○さん、いつもありがとうございます。その方が自分のためにしてくれたこと、自分のために時間を使ってくれたことを忘れず、ささいな事でも感謝し、ありがとうを伝えること、どんなかたちでも良いのでちゃんとお返しをすることを心掛けています。(これは妻の教え)それと良いご縁と巡り合うためにいかに自分を磨いておくかも大切ですね。(これは師匠 上田比呂志さんの教え)」と人とのつながりの大切さを噛みしめるように語る祐希さん。人との出会いやつながりを大切にする萬二さんの精神は祐希さんにも伝わっています。「伝統」と「独自性」、祖父への「尊敬」と「反骨心」、「均一性」と「揺らぎ」。相反する概念の中で葛藤しながら井上祐希さんは有田焼の未来を切り拓く道を歩んでいます。

取材写真:藤本幸一郎、商品写真:ハレノヒ

公開日:2021年3月26日
 
更新日:2021年10月6日

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