「ピースクラフツSAGA」は認定NPO法人ピースウィンズ・ジャパンが実施する佐賀の伝統工芸を支援するプロジェクトです。
つくり手

西川登竹細工の手しごとを伝える「最後の」職人・栗山商店の栗山勝雄さん

西川登竹細工/栗山商店/栗山勝男

西川登竹細工は武雄市の西川登地区でつくられている竹細工で、ピースウィンズ・ジャパンのふるさと納税の返礼品にもなっています。竹の伐採から加工までのすべてをひとりで行う数少ない職人のひとり、栗山商店の栗山勝雄さんにお話を伺いました。

炭鉱の道具から竹細工の一大産地へ、そして今

西川登竹細工/栗山商店外観
西川登竹細工/栗山商店裏

佐賀県西部・長崎県との県境に接する武雄市の西川登地区。西川登竹細工は、明治初期、近隣の北方村(きたかたむら・現武雄市)に炭鉱が次々と開かれると、炭工夫たちが石炭を運ぶ際に用いる揚げ笊(ざる)づくりとして始まりました。明治20(1887)年には問屋も生まれ、佐世保港から軍儒品として出荷されるようになると、500 人以上の職人が働く一大竹細工産地に成長しました。しかし昭和40年代に合成樹脂が登場すると竹製品の需要が一気に減少。時代の流れとともに職人も少なくなっていきました。現在西川登地区で竹細工を製作・販売する栗山商店の栗山勝雄さんは、その数少ない職人のひとりです。

暮らしに根付いたさまざまな「道具」の西川登竹細工

西川登竹細工/栗山さん作業中
西川登竹細工/うなぎうけ

「祖父が笊笥(そうけ)※を始めて自分で3代目。うちは昔からそうけ市や買い物市・農業市などでお客さんに直接販売することが多かった」と語る栗山勝雄さん。栗山商店の奥行きのある広い土間の工房には万石(まんごく)そうけ※などの農家が使う大物のざるから、米のとぎざるや味噌こしなどの家庭用品、ウナギを採るための筌(うけ)まで、さまざまな製作した道具が並んでいます。「西川登竹細工が盛況だった頃は、竹を割り籤(ひご)をつくるのも分業で、家々で1種類の道具を大量に編んだりしていたのですが、うちはひごづくりから編み上げまですべて自分でつくっています。とくにうちはひごを曲げ起こして編んでいく<おこしもの>の細工を得意としてきました」。
※そうけ:竹細工のうち、ざる全般を指す古語かつ佐賀のことば。「しょうけ」とも
※万石そうけ:大型の米揚げ笊。「一斗ざる」とも

伐採からひごづくり、編み上げまでの工程をひとりで

西川登竹細工/使用する竹
西川登竹細工/栗山さん鎌作業

九州各地の竹細工のうち、「そうけ・しょうけ」と呼ばれるざるは、真竹(マダケ)をそのまま用いることが古くから行われてきましたが、西川登地区のそうけは真竹とは別種類の淡竹(ハチク)も素材として使われてきました。「淡竹は真竹に比べ節が短く、硬くて曲がりにくい。水分の多い青い状態でないとひごを取り編むことはできません」。ひごは長いもので7メートル程度。西川登竹細工では細く長いひごを取る際に鎌を使うことも特徴です。「真竹はノリ養殖にも使うため、竹を採る専門業者さんや問屋さんもあるのですが、淡竹は自分で採らないと手に入らない。今は里山が荒れてしまっていることもあり、淡竹を探して切り出すのに苦労します」。

「日本製の値段?」といわれるだけの価値とは

ふるさと納税返礼品_西川登竹細工/栗山商店/鉄鉢花六ツ目大
栗山商店_鉄鉢花六ツ目アップ

ピースウィンズ・ジャパンのふるさと納税でお届けする西川登竹細工は、栗山商店が代々製作してきた淡竹や真竹の「そばざる」と、真竹や生えている時から渋い黒色をしている黒竹(クロタケ)などの太さや長さの異なるひごを用いて幾何学模様を編み上げた「鉄鉢花六ツ目」、おこしもの細工の真竹製「網代弁当箱」「サンドイッチ籠」です。「実演販売などでは、お客さんは最初に値段をみて、日本製なのでこの値段ですか?と聞いてきます。決して安いとはいえない値段だから。それでもこの値段の価値を分かってくれる方が買って行かれます。古くからの道具に懐かしさを感じる人も多いですが、丈夫さを知って買われる方も増えているようです。最近は名古屋からネットで見てここまで買いに来た若いお客さんもいて、驚きました」。

20年30年と使い続けるからこそ、大切にしたいもの

西川登竹細工/栗山商店/ざる
西川登竹細工/栗山さんインタビュー

西川登竹細工の魅力は使い込むほどにあめ色に移り変わる姿にあります。「20年30年と使えるような道具を―と思いながらつくっています」。実際に見せていただいたご自宅で使っている先代作の「そうけ」も、長年の使用に耐えた味のある色の姿でした。「消耗品だと思って使う方もいる道具かもしれませんが、長い間使う道具だからこそ、材料選びから編み上げまで手抜きをしないでつくること。次世代の後継者も今のところ西川登にはいないので、絶えてしまう技かもしれません。だからこそ今、自分がつくって残しておこうと思っています」。

(取材写真:藤本幸一郎、商品写真:ハレノヒ)

公開日:2020年11月12日
 
更新日:2023年9月8日

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